福岡家庭裁判所柳川支部 昭和41年(家)149号 審判 1967年4月24日
申立人 細井キミヱ(仮名)
相手方 畑元一(仮名) 外七名
主文
被相続人細井栄三(本籍福岡県○○市大字△二〇一番地第二、明治六年六月二〇日生、昭和二四年三月二日死亡)の遺産分割として、
(1) 別紙物件目録記載の第一を申立人細井キミヱの取得とし、別紙物件目録記載の第二を相手方細井サキが三分の一、相手方新川ヤス子、同細井紀夫、同細井礼子、同細井テルミ、同細井和子、同細井孝行が各九分の一の割合の持分を有する共有とし、
別紙物件目録記載の第三を相手方畑元一の取得とする。
(2) 相手方細井サキは、申立人細井キミヱに対し金一四万九、七二六円を、相手方畑元一に対し金六万〇、五五六円を支払え。
相手方新川ヤス子、同細井紀夫、同細井礼子、同細井テルミ、同細井和子、同細井孝行は各自申立人細井キミヱに対し金四万九、九〇七円を、相手方畑元一に対し金二万六、八五二円を支払え。
鑑定人武下直に給した費用金一万円は申立人に金五、〇〇〇円を、その余を畑元一を除く相手方等の負担とする。
理由
一、申立人は被相続人細井栄三の遺産につき申立人および相手方等間の分割を求め、その事由の要旨は、
被相続人細井栄三は昭和二四年三月二日死亡し、その遺産はその相続人である申立人および相手方等で相続したが、その分割の協議がととのわないのでこれが分割の審判を求めるというにある。
二、そこで、申立人細井キミヱ、相手方細井サキ、同畑元一に対する各審問の結果、および鑑定人武下直作成の鑑定書ならびに一件記録添付の戸籍謄本、登記簿謄本を綜合すると次の事実が認められる。
(1) 被相続人細井栄三(明治六年六月二〇日生)はその妻同ハルの間に、長男(細井)市太郎、次男(細井)仁、長女(小川)ソノ、次女(細井)キミヱ、三男(細井)誠、三女(細井)ヤエ、四男(細井)正司、五男(細井)静男、六男(細井)清澄、七男(細井)洋治、三女(天野)タカ子、四女(桃井)ユリ、八男(畑)元一等一三名の子がいたが、長男(細井)市太郎が明治三三年一〇月三〇日に、次男(細井)仁が明治三五年六月二三日に、三女(細井)ヤエが大正一年一一月七日に、六男(細井)清澄が大正五年七月一四日に、七男(細井)洋治が大正七年九月二六日に、妻ハルが昭和九年一〇月二三日に、四男(細井)正司が昭和一九年九月一四日に、五男(細井)静男が昭和二一年七月一四日に、それぞれ死亡した後である昭和二四年三月二日福岡県○○市大字△二〇一番地第二で死亡し、その相続が開始したが、長女(小川)ソノ、三女(天野)タカ子、四女(桃井)ユリは昭和二四年七月一九日福岡家庭裁判所柳川支部に相続放棄の申述をなしたので、結局次女細井キミヱおよび三男細井誠ならびに八男畑元一の三名が各三分の一宛の法定相続分を有する共同相続をなした。ところが、その遺産分割がなされない内の昭和四一年一月四日三男細井誠が死亡し、その妻サキ、長女(新川)ヤス子、長男(細井)紀夫、二女(細井)礼子、三女(細井)テルミ、四女(細井)和子、三男(細井)孝行が、その相続人となり、その妻サキが三分の一の、(新川)ヤス子、(細井)紀夫、(細井)礼子、(細井)テルミ、(細井)和子、(細井)孝行が各九分の一の割合をもつて、前記細井誠の相続分を承継・相続した。その結果、被相続人細井栄三の遺産は、細井キミヱが三分の一の、畑元一が三分の一の、細井サキが九分の一の、新川ヤス子、細井紀夫、細井礼子、細井テルミ、細井和子、細井孝行が各二七分の一の、相続分を持つて共有しているものである。
(2) そして、被相続人細井栄三の遺産は、
<1> 福岡県○○市大字○字○△二〇一番地の二
宅地 二〇八・二六平方米(六三坪)
<2> 福岡県○○市大字○字○△一九九番地の二
宅地 二四七・九三平方米(七五坪)
<3> 福岡県○○市大字○字○△二〇一番地
(登記簿上)同所二〇七番地の二
居宅、木造草葺二階建一棟、家屋番号、同所三七番
一階 七六・〇三平方米(二三坪)
二階 一三・二二平方米(四坪)
(附属建物)
イ 物置、木造瓦葺平家建一棟
二七・七九平方米(七坪五合)
ロ 畜舎、木造草葺平家建一棟
九・〇九平方米(二坪七合五勺)
ハ 物置、本造瓦葺平家建一棟
(福岡県○○市大字○字○△一九九番地の二所在)一八・一八平方米(五坪五合)
<4> 福岡県○○市大字○○字○○△二五〇番地
イ 田 一四八五平方米(一反五畝)
ロ 田 二四七・五平方米(二畝一五歩)
ハ 道路九二・四平方米(二八歩)
(登記簿上)同所同番地
田 一八二八・〇九平方米(一反八畝一三歩)
<5> 福岡県○○市大字○○字○○△二五二番地の一五
田 三三平方米(一〇歩)
<6> 福岡県○○市大字○○字○○△二五二番地の一六
田 三三平方米(一〇歩)
であるものと認める。
(3) そして、右遺産の価格は、
<1> の宅地は金九四万五、〇〇〇円
<2> の宅地は金一一二万五、〇〇〇円
<3> の居宅ならびに附属建物は金九五万円
と認められ、
<4>のイの田は、農耕地の現状のままでは金一〇五万円、これを農耕地以外のもの、即ち宅地とすれば金五六二万五、〇〇〇円
<4>のロの田も、農耕地の現状のままでは金一七万五、〇〇〇円、これを農耕地以外のもの、即ち宅地とすれば金九〇万円
<5><6>の田は、前同様、農耕地の現状のままでは金四万〇、六〇〇円、これを農耕地以外のもの、即ち宅地とすれば金二四万円
であることが認められる。
<4>のハの道路敷となつている土地は、もともとが<4>のイおよびロの田の利用の便に使用されているのみではなく、右以外の本件遺産の土地の利用の便にも使用されているもので、これも前記相続人の何人かの所有に帰せしめ、これが道路としての負担をこの者に帰せしめることとなるのであるが、その観念的価額をその者の取得分に入れることは、現実的な価額が極めて低いものであること等を考え、これを総額の内にも入れないこととする。
しかりとすれば、被相続人の遺産の総額は、上記田を農耕地の現状のままとすれば総計金四二八万五、六〇〇円に、上記田を農地以外の土地即ち宅地とすれば、総計金九七八万五、〇〇〇円となることが認められる。
ところで、上記各田は、その周辺が既に宅地となり、現に<4>のイの田の東側の土地は既に宅地となり住宅が建築されているものであるため、本件田を含む周辺の農地は現実の取引においては現状の農地としての価額ではなく、宅地としての価額で取引されているものであり、かかる現状からして本件遺産分割にあたつても、申立人細井キミヱは<4>のイの田の取得を望み、これを宅地に転用し住宅を建築したい旨を表明し、相手方の内亡細井誠の相続人細井サキも他の遺産全てよりもこの田の取得を望んでいる。
とすれば、本件<4>のイロ並びに<5><6>の田は現状の田としての価額によるも潜在的に有している客観的取引価額としての農耕地以外のもの、即ち宅地としての価額によることが妥当と考えられるので、被相続人の遺産の総額は金九七八万五、〇〇〇円と認める。
三、しかりとすれば、前記各相続人の相続分に従つて、その財産総額を按分すれば
申立人細井キミヱおよび相手方畑元一がいずれも金三二六万一、六六七円(円以下は四捨五入)
相手方等の内前記畑元一を除く亡細井誠の相続人等は前記割合の相続分によつて金三二六万一、六六七円となる。
そこでこれを基準として、前記遺産である不動産の帰属を決定することになるものであるが、
<1> 農地を農業に従事するものではない者に相続せしめることは農業基本法第一六条ならびに農地法よりみて妥当性を欠くものであるが、前記の如く客観的にみても宅地化の傾向にあり、転用の余地があること、
<2> 現金の給付をもつて現物分割に代えることも考えられるが、現実に遺産を占有する細井誠の相続人等は、財産を処分売却する以外には短期間内ではその支払能力がなく、かつ又相互の不信感および感情の対立からみて長期間の割賦支払は困難であること、
<3> 被相続人細井栄三の家業である農業は細井誠が承継し、引続き被相続人の住居(前記<3>の建物)に居住していたが、その後現在細井誠の相続人等(新川ヤス子を除く)が居住している所に家屋を求めて移動し、現在地に賃貸しているものであること、
<4> 細井誠の相続人は、同人の相続分を承継しながら、いまだにその分割を求めておらず、またその相互の間においてもその分割を求めているものとは認められず、新川ヤス子を除く者等は同一の家に居注し共同の生活を営んでいるものであり、遠い将来はさておいてもさしあたりは共有関係を継続することに異議がないこと、
等の事情を考慮し、主文(1)のとおり現物分割することとし、これにより相続分の価額に満たない申立人細井キミヱおよび相手方畑元一に対しては、これにより相続分の価額を超過した前記細井誠の相続人等が主文(2)のとおりその相続分に応じた金員を給付ずることにより平均せしめることにした。
よつて、主文の通り審判する。
(家事審判官 篠原昭雄)